朝4時に目が覚めた。
昨日の夜、うつぶせで布団の上に横になっていた記憶があるのだが、どうやら掛け布団もかけずそのまま眠ってしまったようだ。
なんと、目覚めた時も同じ格好だった。
もし途中で、旅館の仲居さんが訪れた、さぞビックリしただろう。
まるで事故現場の人型チョークのような倒れっぷり(笑)
冗談はさておき、昨日の夜にかけなかった日記を書き始める。
一晩置いてしまってどうだろう、と心配したのだが、記憶はスムーズによみがえり、あっという間に1時間半経過。
TVの天気予報を見ると、岩手の予報はそれほど悪くないのだが、青森の予報が悪い。
特に青森市から日本海側にかけての天気は、俺に取って最悪の予報。
日中曇りで、午後から雨。
昨日あれだけ降られたと言うのに、今日も降ると言うのだ。
数日前の予報はどうしたんだ!と言いたいほどの変わりよう。
でも開き直りはあって、昨日あれだけ降られたんだから、今日降ったっていいや、ってな具合。一日も二日も同じ、って事(笑)
昨日の夜に魹ヶ崎近くへたどり着けなかった後悔はもう冒したくないから、心は決まっていた。
そう、本州最北端、大間崎へ行くのだ!
そうと決まれば準備は早い。
10分で支度を終え、フロントへ。
昨日、おいしい居酒屋を教えてもらったお礼を言い、清算を済ます。
素泊まりで4000円なり。
旅館が古く設備が痛んではいたのだが、ふかふかの布団が、しかも2枚も敷いてあって最高の寝心地だったので、文句はなし。
「今日はどこまで行くのですか?」との問いに、迷わず「青森の一番北まで行きます!」と答える。
チェックアウトは丁度6時。テントを結わきつけ、昨日夜に取り忘れたメーター類と旅館をビデオに収め、いざ出発!!
天気は素晴らしいくらいに晴。昨日はいったいなんだったんだ、と思う。
気温と水温の差が激しいのだろうか、低い位置に霧が立ちこめ何とも幻想的な朝だ。
霧に煙る浄土が浜を右手に、国道45を北上。道は曲がりくねり、トンネルが多いが、渋滞は全くなく至って快調。ほどなく隣の田老町へ。次は岩泉町、田野畑村。
ここから一度海に別れを告げ、山間のワインディングを気持ちよく走り抜ける。アップダウンと激しいRも快感だ。普代村に入ると再び海と遭遇。
霧に煙る海と、霧に包まれ、でも明るく広がる山々。ほとんど誰も通らない道。一気に距離を稼げそうな予感がする。
野田村をすぎると久慈市。続く種市町も海沿い。
しかしあまりの快適さに、走る事を止めたくなく、写真を撮るのをすっかり忘れる。走行している間に階上町を過ぎ、とうとう県境の看板が見えた。
バイクを路肩に止める。
そしてビデオと写真、両方を収め、青森県に突入!
驚かされたのは、八戸市が大きな街だと言うこと。ここまで大きな街は仙台市以来だ。
大きな街に付き物なのは渋滞。巻き込まれる心配があったので、無料供用中の道路へ逃げる。
高速道路ではないが、作りはそのもの。風景は楽しめないが、ほぼ直線で時間は稼げる。
ちょっとだけ迷って再び国道45に合流し走ると、むつ市へと繋がる国道338に出くわした。
ほどなく三沢市に入る。米軍基地の町ではあるが、俺の走っている道は町の中心部からはなれていて、その空気は感じられなかった。しかし八戸より手前の町とは明らかに違い、海には砂浜の気配がある。
いつの間にか、あの長いリアス式海岸を抜けていたのだ。
次に入ったのは、おそらく日本ではかなり名の知られているであろう村。
核燃料の最終処分の行われる六ヶ所村だ。
なぜ、そんな危険な事を受け入れたのだろう?とふと考えたが、村を走っていて納得した。とにかく何もないのだ。民家を過ぎて見えるのは、沼や田んぼや畑。
人の気配もほとんど感じられない。
国が行おうとしている事業と、村の思惑が一致して、迎える事になったのだろう。
将来あるかもしれない危険、ではなく、村人の今を守る為の苦渋の選択、と言う所なのかもしれない。
その隣は東通村。
どこかで聞いたような・・・と考えていたら目の前に「東京電力」の文字。
そう、関東圏の電気をまかなう為に、原子力発電所を作っている村なのだ。
立て続けに見た、日本の悲しい現実。
多くの国民の為、あえて危険を背負う二つの村。
どう足掻こうが自治体の税収では住民を賄いきれない現実。
それを目の当たりにして、悲しくなった。
こんな場所があると言う現実、そしてその村を訪れた事のある人が、いったいどれくらいいるのだろう。その犠牲の上で、みんなの当たり前の暮らしと幸せが成り立っているのだ。
地方の街では高齢化は深刻だと言うのも分かった。人影が見えたと思うと、バス待ちをしている人で、老人ばかり。
時折すれ違う人も、腰が曲がった人だらけ。若い人がほとんど見当たらないのだ。
いずれ日本全てがこうなってしまうのだろうか?そう思うと背筋がゾッとした。
やがて自分もその中の一人になるのかと思うと、悲しくさえなってきた。
やがて国道は大きな町むつ市へと入る。ここからは国道279で大間崎へ一直線だ!
もう迷う心配はない。
ただひとつ心配なのは雲行き。
ほぼ快晴だった岩手と違い、青森に入ってからは薄曇り。しかもむつ市に入り海沿いへ抜けるとその心配は増してきた。
行く先が真っ黒く立ちこめるような雲に覆われているのだ。
それでも行くしかない。ここまで来て引き返す理由はない。
今日の出発時に、雨が降っても関係ないと考えていたのだし。
町中の狭い道路を走り抜ける。これが国道なのか?と疑いたくなるような狭さとくねり具合。民家の壁が迫る道。都心なら間違いなく一方通行であろうほどの狭い場所さえあった。
しばらく走ると、国道は再び山へ。と言っても海沿いの道がない為に峠を越える為。急勾配と激しいRをいくつか過ぎる。
風間浦村に入ると温泉地の看板。こんな場所にもあるのか・・・と思いつつ通り過ぎる。
あと大間崎まで10キロの標識が見え、いよいよと感じるが、突然、雨が降り始めた。
しかも大粒の雨。叩き付ける雨がヘルメットに響き、うるさいくらい。
とても通り雨では済まされないような激しさに、思わずカッパを羽織る。
ここへ来て洗礼を受けた気分だ。
再び走り始める。前を見るのも大変なほどの雨に打たれながら、小さな港を右に過ぎると、ほどなく大間町へと入った。
そしてここからは国道をそれ、海沿いの道へ。
雨が段々と小振りになってきた。
そしてそれはあっけなく見えた。
右手の漁港を過ぎると、突然カモメの鳴き声。しかも一羽ではない。沢山の鳴き声なのだ。
そしてその声の先に、「本州最北端」の碑があった・・・
それはそれは小さな公園のような場所。
背後に小さな島があり、堤防の内側に背の高い碑と、ちょっと離れた場所にマグロを象った石碑のようなもの。そして一階は吹き抜けになっている二階建ての小さな資料館。
その手前には数件の土産物屋。
どこにでもありそうな、どの観光地でも見かけそうな、その佇まい。
しかしそんな寂れた印象とは裏腹に、活気に満ちていた。
到着したのがちょうどお昼時と言うのもあったのだろうが、人があふれているのだ。
しかも昔ながらの観光地でありがちな、年配者だけではないのだ。
俺のようにバイクで訪れるものも多かった。
10台以上の集団も見かけた。
そうこう感心しているうちに、雨も上がり、写真とビデオを収め、友人に報告のメールを出した。
大間崎へ行ったらひとつやってみたい事があった。
それは大間のマグロの刺身を食す事。
しかし、ここにあるいくつかの食堂では、ラーメンが主であるようで、諦める事となった。
どっちにしてもお土産を買うのに手間取って時間がなかったのだが・・・
約1時間ほどの滞在はあっという間に終わった。身体を休める暇もなく、食事をする暇もなく。
まあ、バイクの旅ではいつもこうだから、今更後悔はしないのだが(笑)
ここから先はむつ市まで同じ道を引き返し、そこから先は陸奥湾沿いの国道279を走る。
一旦止んだ雨も再び降り始め、またしてもカッパを羽織った。
せっかくの陸奥湾も、写真に収める事が出来ず。
しかし、望みもあった。
大きくたれ込める雲の先には、ほんの少しだけ光る空が見えるのだ。
雨も小振りになった。
ところが今日の雨はご機嫌斜め。止んだかと思えば、信じられないほどの豪雨になったりして、その繰り返しなのだ。
でも西の空には少しだけど光が見える。
残り時間も、日没までには日本海へ行けるギリギリ。
雨の覚悟さえ出来ていれば、今日は予定通り行けそうだ。
しかしふと思った。
海沿いの町は小さい。
昨日の宮古とは違う。
もし雨に降られて、泊まる場所を探し、見つからなかったら?
仮に見つかったとしても、そこにたどり着くまで何件探すのだろう?
だから俺は決断した。
今回の旅のひとつのテーマ、「やめる勇気」をここで実現する事にしたのだ。
今日中に日本海沿いへ抜けるのは諦める、そう決断したのだ。
そうとなったら、もう迷う事はない。
後は出来るだけ大きな街で泊まる場所を探すだけ。
目的地は、日本海へ抜けるのと同じくらいの距離にある弘前市に決めた。
そして途中の看板で見つけた大手のホテルチェーンをネットで探し、そこへ向かうことにした。
途中青森市内で、晴れ間に遭遇。進む国道の先に太陽が光り、路面の照り返しとの挟み撃ちに会い、一瞬目がくらんだ。
なんてきれいなんだろう・・・
しかし無情にも再び雨。晴れ間は消え去った。
ほどなく青森市を過ぎ、国道7に合流。
しばらく内陸へ向け山間を走っていると目の前にきれいな三角形の山が見えた。
ちょうど雨もやんでいるのだから、せめて写真だけは撮ろうと国道7の路肩にバイクを止める。
そしてそこで再び奇跡が起きた。
雲の切れ間から、太陽の眩しい光が差し込んだのだ。
激しい雨の記憶しかない今日の午後に、唯一美しい思い出をくれた。
そこから数キロ先で国道から離れ弘前市街地へ。
めざすホテルは、国道沿いの好立地。
今年オープンしたばかりで、しかもキャンペーン価格で安いので、空きがあるかどうか気になったのだが、それは憂いで終わった。
「禁煙室なら」と言う条件で、あっけなくチェックイン。
ちょうど夜6時だった。
真っ先にシャワーを浴びる。
そして昨日の失敗を繰り返さない為にも、とすぐに日記を書き始める。
書き上がったのは、ちょうど午後8時20分。
今日は今から、ネットで食事どころを探してみようかと思う。
しかし便利な世の中だ。
iPhoneでも探せるから問題はなかったのだが、このホテルはネット完備。ケーブルをつなげば、即光回線が使える。
これなら明日の予定も立てやすいと言うものだ。
さっきまでは、集中する為にとTVは我慢していたのだが、そろそろつけるとしようか。
さぁ、明日は帰るのみ。
どのルートにしようか?
今晩じっくり考えてみよう。
データー
出発 朝6時
到着 夜6時
走行距離 508キロ(岩手県宮古市→青森県→青森県大間崎→青森県弘前市)
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