2009年4月17日金曜日

01-06ひたすら3800キロ、旅6日目 2003/12/25

朝6時50分目覚める。カーテンを開けると、昨日の夜には全く見えなかった部屋からの展望が拡がる。このホテルは小さな入り江の奥にあったようだ。夜中聞こえてきたさざ波の音は、今も同じ。邪魔するものは何もない。自動車の排気音など全く無縁の世界が目の前に拡がっている。

水平線は朝の予感。薄紫の層の上には、ほんのわずかにオレンジ色。そして濃い水色から深い碧へ染まる空。一隻の漁船が湾を横切っていく。やがて朝が訪れる。静かな波の上に、まぶしい朝焼け。この部屋で見る初日の出は、どれだけ綺麗だろうと想像してしまう。7時半、1階のレストランで朝食をとる。夜食とは違い質素で、至って普通の朝食。まぶしい朝陽と海の照り返しを全身に浴びながらかき込む。部屋へ戻り出発の準備をして、フロントで残りの会計を済ませて8時に出発。伝票を見ると夜食が3000円で朝食が1000円。と言うことは素泊まりなら3500円と言うことだ。なんという安さだろう?これには改めて驚いた。まずは、昨日叶わなかった佐多岬へ向かう。朝8時から開く有料道路は、平日のこの時間と言うことで他の客は誰もいない。暖気は十分にしたのに、アイドリングがばらつき気味でエンジンは不調。そのエンジンを労るようゆっくりと、グアムのような粗めのアスファルトを右へ左へと曲がりながら緩やかな登りを10キロ近く走る。終点は山を切り開いたような小さな駐車場。初めてみるガジュマルの木の下にバイクを止め、トンネルの入口で入場料を払って岬へ向かう。犬吠埼も、野島崎も、室戸岬も、足摺岬も、駐車場のすぐ脇が岬だったので、そのつもりで意気揚々と歩き始めるが、トンネルを抜けてビックリ!緑だけに覆われた山道の彼方に小さなタワーが見えたのだ。あそこまで行かなければならないのか?しばらく下って、少し登ると、10分ほどで九州最南端の神社。ここはかなり古い歴史を持つようで、この旅の安全を願いつつもおみくじも買う。

吉。

書いてある内容によると、家庭の不和と、女運に気を付けなければいけないようだ(笑)。当たっているかも・・・そこからは緩やかな登りが続き、駐車場から20分ほどかかってやっと佐多岬へ到着。息は切れたままだが、本土最南端の標識にだんだんと実感が湧いてくる。

数百メートル先の灯台をのぞけば、見渡す限りの海、海、海。霞んで見えなかったが、この先に種子島や屋久島があると思うと感慨もひとしお。

ガッツポーズをし、しばらく感動に浸る。涙が出そうになった。下らないことでクヨクヨしていることが、どれだけちっぽけなことなのか、分かった気がした。10分ほどそこで風を感じ、再び駐車場へ向かう。行きは下りが多かったから、当然のこと登りが多い。行きは良い良い帰りはなんとか・・・さっき治まった息は10分もたたずに再び切れだし、トンネルの手前にたどり着いた頃にはゼエゼエ。昨晩喘息の薬を飲んでいて良かったと感じつつも、息は治まらず、越えれば駐車場なのに、古びた木のベンチに腰掛け休憩をとった。

やっとのことでトンネルを抜け駐車場にたどり着きバイクの暖気を始めると、さっきはなかったバスから運転手が降りて近寄ってくる。話しかけてきたので、こちらの旅のことやバイクのことを色々と話すと、真剣に聞き入り色々聞き返してきて、思いの外話が弾んだ。そこでちょっとショックな話を聞いた。民間の運営するこの有料道路と施設は、近いうちに閉鎖になるかもしれないと言うこと。親会社の経営破綻のあおりで、切り捨てられるかもしれないのだ。突然思い立った旅ではあるが、改めて、この寒い中旅だったことに運命を感じた。9時10分過ぎに運転手に別れを告げて、佐多岬を後にする。次はもう走れないかもしれないと思うと、ここまでやり遂げた充実感と寂しさが交差して、複雑な気持ちになった。と、その気持ちをうち消す出来事が!なんとイノシシが道のど真ん中に!こちらもびっくりしたが、向こうも驚いたようで、馬が前足を跳ね上げるように、ものすごい勢いで草むらの中に消えてしまった。突然驚かされた後に待っていたのは笑い。大爆笑は止まらなかった。

やがて料金所へ。地元のおばさんが立ち話をしていたのでイノシシがいたと言うと、当たり前のことのように笑って返す。どうやら全く珍しくなく、ここでは共存しているようだ。そう言えば名産が黒豚だった。ここから県道68へ。昨日走ったのは大隅半島の東側だが、西側は国道も太い道路で快適。昨日の出来事がまるで悪夢のようにさえ感じた。程なく国道269へ出、暖かさで霞んだ対岸の指宿を見ながら北上。途中、風力発電の施設を写真に収める。一度県道68へ入り、今度は国道220。垂水市から桜島を眺めつつ、今日一回目のフェリー。晴れた空の下、太陽を全身に浴びながら、短い船旅は40分弱。

到着した鹿児島は大きな街だ。車道も歩道も幅広く、街は綺麗に整備されている。標識もしっかりしているので、迷うことなく市内を抜け国道3にのり、川内市を目指す。

昨日の宮崎とは違い、この町は穏やかで、流れる自動車もゆっくり。このまま国道3で海へ出るのも良かったが、この旅は海縁を走る機会が多いので、あえて山間の県道36を快調に飛ばす。この頃から空が曇りだし、太陽が磨りガラスの向こうのように丸い輪郭を見せる。

海沿いの川内市は小さな街ですぐに通り過ぎ、午後1時20分、町はずれのコンビニでいつもながらの遅い昼食をとる。再び走り始めるが相変わらずアイドリングはばらついている。昨日までのハイペースのように目一杯吹かす状態でないのも原因かもと思いつつも走り続ける。幸い、信号待ちでエンストすることはない。程なく見えたのはこの旅初めての東シナ海。風は昨日までとは違いかなり強く、大陸からの風かと思うと、改めて遠くへ来たことを感じる。阿久根市で国道389へと折れる。黒之瀬戸大橋を越え長島に入ると、風はさらに強くなる。カーブを走っているとバイクがふらつき、怖くなって何度もスピードを落とす。それでも地元の人には風なんて当たり前のようで、何度も後続車に先を譲った。この日二番目のフェリーが出る蔵之元港には、ちょうど良い時間に着き10分ほど猫と戯れ出航。便数が多いせいか、船も綺麗で快適な海の旅。風は強くとも、波はない。30分で下島に上陸。ここはあの有名な天草だ。

走りながら悩む。長崎へ一直線の富岡港のフェリーは1日に4便。島原湾の入り口の島鉄フェリーは便数が多いが長崎は遠い。宿泊先を探すには大きな都市が簡単だから何が何でも早く長崎に着きたいのだ。悩みつつもそのまま海沿いへと進み富岡を目指すことにする。

大江天主堂を左手の丘の上に見つけるが、写真を撮るには遠かったので泣く泣く走り抜けた。海沿いの国道389を走る自動車はあまりなく、時々強風に煽られながらもハイペースに走る。程なく火力発電所が見えたので、フェリー乗り場のすぐ近くまで来たことを感じる。富岡は静かな街だ。冬休みに入ったせいか、子供達の姿が多く目に付く。夕方5時を目前にして、帰宅を促すチャイムが響く。九州に来て聞くのは2度目だが、鹿嶋と違い、しっかりとアナウンスが入るのは、人の温かさが感じられて良いと思う。鹿嶋の役所も見習うべきではないか?ただ良い子のみなさん・・・と言う言葉遣いは、かなりこっぱずかしいかも(笑)フェリーはこれ又運良く、30分ほどで出航の予定。今日のフェリー3つ全てのタイミングの良さに感謝する。5時20分、フェリーは出航。外海に出る前、すでに大きく揺れ始める。外海に出ると完全にドリフのコント状態。客室にかかるカレンダーが、時計の振り子のように忙しく右へ左へと揺れる。曇りのために夕暮れも見られず、あっという間に闇の中へ。この旅のテーマWaltzInBlueを聞き地図を眺めながら過ごすと、あっという間に1時間10分は過ぎる。フェリーを下りたのは、午後6時30分過ぎ。長崎市街地まで10キロもないのに、静かで寂れた雰囲気の街だったのは意外だった。国道324を先へ進むと、すぐに渋滞にはまる。都市部で独特の、流れては止まりを繰り返す渋滞だ。当然期待は高まる。後10分もすれば暖かいホテルの中だ、と勝手に想像は膨らんだ。登り坂が終わり、下りに差し掛かるとすぐ、斜面全てにひしめき合うように建物の並んだ綺麗な夜景が目に飛び込む。人の数も、バイクの数も、どこから溢れてきたのかと思うほど、急激に増える。すり抜けをするのが怖いほどに狭い道なので大人しく待っていると、その横を次々にスクーターが過ぎていく。まるで東京のよう。斜面を下り終え市街地へと入り、橋を越えてすぐに路面電車とあわせるよう右折したが、これは大きな間違いだった。大きな街に麻痺して、方向を見誤っていたのだ。

道路脇にホテルがないか注意しつつ走るが、一向にそれらしいものが見あたらない。当然だ。一番流行っている駅前通でないから、すぐに街並みは終わり。諫早市へ抜けるバイパスの前へと出てしまった。引き返したいが、自動車の流れが速く、道を見極める余裕もなく、諦めて信号を右折し脇道から丘の上を目指した。しかし適当に走っていても分かる訳はなく、静かな街の中をぐるぐる回る羽目に。どうしよう・・・と何度も悩む。人に出くわさないから道も聞けないし、仕方なしにぐるぐると走り続ける。やがて信号待ちしている目の前に派出所を見つけた。駐在さんは、泊まる場所を聞かれて一瞬困った顔を見せたが、地図を広げて真剣に探してくれた。その駐在さんの案内でやっとホテルへとたどり着くことが出来た。この時、すでに夜8時。今日ばかりは、高くても仕方ないと諦めつつフロントに聞くと、泊まれるという。夕食は無理だったが朝食付きで8400円で泊まれることになった。しかも長崎での目的地、原爆公園や浦上天主堂に自動車で10分ほどという場所でもあった。このホテルのフロントは、今日まで泊まった中で一番しっかりした接客で、かなり好感だ。食事する場所を聞いたが、名物の中華街は殆どが8時でオーダーストップ。ホテル内のレストランはディナー予約のみで食べられず、諦めてコンビニにすることにした。場所を聞くとすぐ近くのよう。買ってきて持ち込みはまずいですよね?と駄目元で聞いてみたが、これがなんと笑顔で構いませんよとのこと。本当はまずいのかもしれないが、旅の事情を察してくれたのだろう。つくづく好感の持てる接客だ。部屋は小さく、狭いが、過ごすには十分。今日までのホテルと違い、パソコンを置く余裕のある机もあった。荷物を置き部屋を出、教えてもらったコンビニを探す。途中ケンタッキーがあり、今日がクリスマスだったことを思い出す。こんなに暖かいクリスマスは初めてだなと、考えているうちにコンビニを見つけた。弁当を買おうと思ったが無性にチキンが食べたくなり、スパゲッティーと飲み物だけを買いケンタッキーへ向かう。受付のバイトが、品物を渡すのを忘れたままありがとうございましたと元気良く挨拶したが、他のバイトが慌ててその子に品物を渡したところで大テレ。妙に可愛かった。そして戻ったホテルのロビーで缶ビールを買い、一人寂しく、でも充実した旅に感謝しながら、チキンを頬張った。日記を書くことに一生懸命で、もう11時になるというのに風呂にも入っていない。今日はこの旅初のユニットバス。泊まれただけでも感謝しなければならないから、贅沢は言えないか。さて、入るとしましょう。


追伸 明日の天気が心配だ。最高気温は10度。それ以上に気になるのが、雪がちらつきそうなのだ。明日は、中津江村から阿蘇へ抜ける山中コース。路面は大丈夫だろうか?無事に佐賀関に到着出来るだろうか・・・


データー

出発   午前8時ちょうど

到着   午後8時頃

走行距離 279キロ(鹿児島県肝属郡佐多町→熊本→長崎県長崎市)

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